探偵うんちく「グレンモーレンジ」_六本木探偵バーANSWER

グレンモーレンジ(Glenmorangie)

一押しのモルトは?と聞かれたら、ハイランドの「グレンモーレンジー」を真っ先に挙げる。
「静寂の峡谷」を意味を持ち、現地スコットランドで最も売れているモルトの1つである。

あちこちで見かけるメジャーなモルトだが、個人的には大抵の店が置いている「オリジナル(10年)」ではなく「18年」が断然良い。
「アスター」も好きだ。
オリジナルと比較してもより薫り高く深い味わいで、しかしモーレンジーらしい軽さや上品さは失われていない。
例えるなら、微笑んでたたずんでいる1人の貴族女性。
後味が甘くやわらかく残り、つつみこんでくれる優しさがある。

今となってはウィスキーは褐色をしているのが一般的だが、そもそもは無色透明の酒だったというのはご存じだろうか。
つまり現在のような熟成期間を持たず、蒸留したてのスピリッツをウィスキーと呼んでいたのだ。

ところが18世紀初頭、イングランドがスコットランドを併合し、財政確保のためにスコットランドに対して高額の酒税が課されるようになった。
まさに死活問題。
小規模な酒の作り手たちは密造するより他無くなった。
どのように収税の手を逃れるか。

彼らはそこらに大量にあるピート(泥炭)を用いて大麦麦芽を乾燥させ、これまたそこらに転がっているシェリー等の空き樽につめて保存した。
そしていざ樽の蓋をあけてみると、見るからに彼らの知っているウィスキーとは違う酒がそこにはあった。
樽の色や香り、ピートの独特な香りなど、現在みとめられるウィスキーの独特な風味が生み出され、これは瞬く間に広まっていった。

ウィスキーは、密造時代に大きく飛躍したのだ。
また蒸留を行う場所も、谷間や森の奥などの見つかりにくい所を探して行っていた。
そのためか、ハイランドやスペイサイドのモルトの名前には「谷」の意味で「グレン」とついているものが多い。
グレンリベット、グレンエルギン、グレンフィディック・・などなど。

谷底は川になっているのが殆どで、新鮮な水を取り入れることができるというメリットもあるのだろう。
ちなみにグレンモーレンジーは、スコッチの中では珍しく硬水を使用しておりミネラル分が豊富である。

グレンモーレンジー蒸留所は、ドーノック湾の南岸で1738年に作られたビール工場を1843年に改装してつくられた。
1905年まではストラススペイと呼ばれていたそう。
この蒸留所は、スコットランドで一番首の長いポットスチルを使用しているのが特徴である。
ポットスチルとは蒸留釜のことだが、この首の長さは味わいにかなり影響が出る。
首が長いという事は、蒸留途中で少し温度が下がるため、不純物が蒸留液に混ざりにくい。
モーレンジーのものはなんと5m以上もの高さがあり、これはもともとジンの蒸留用の中古品だったとか。

これによって、軽くてクセが少なく、なめらかでエレガントな味わいが特徴のウィスキーが生成されるのだ。

熟成には最低10年バーボンかテネシーウィスキーのホワイトオーク樽を用いて行う。
「オリジナル」の熟成はここまでだ。
しかし「18年」は、15年間オーク樽で寝かせ、その後30%をオロロソシェリー樽に移して3年間熟成させる。
最終的に、オーク樽に残った分とシェリー樽に移した分をブレンドして完成されたのが「18年」だ。
シェリー樽を最後に用いたため少し赤みがかり、芳醇で香り高いモルトに仕上がっている。
他にも、「キンタルバン」はポート樽に、「ネクタドール」はソルテーヌ(白ワイン)樽に、フィニッシュで移される。
ちなみに「アスター」は、ゴールド色が美しく、味はクリーミーであることが特徴。
加水をせずに仕上げるカスクストレングスであるため、57.1度ある。
しかし高いアルコール度数にもかかわらず、刺激をそこまで強く感じないほどまろやかにまとまっている。

全8種、全て試してみたいところではあるが、なかなか揃っているところが無い。
今年5月に発売されたグレーのラベルの15年「アルテイン」は、プライベートエディションの第三弾。
「スーパー・タスカン」というトスカーナのワイン樽をフィニッシュに使っているとか。
数量限定とのことで、お店で見かけたらぜひ、こっそり教えてほしい。

ハイランドは広く、そのためハイランドモルトとひとくくりにはできない。
しかし、基本的にはピート香がおだやかでバランスのとれた味わいが特徴だ。
グレンモーレンジーはモエ・ヘネシー・ディアジオ社だけあって、デザインも洗練されていて美しい。
女性やウィスキー初心者にもおすすめのモルトである。

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