甘くない、さっぱりした味が男性や数杯目のカクテルとして人気のモスコミュール。
オールデイカクテルといって、食前や食後を問わずに飲めるカクテルとしても広く楽しまれているスタンダードカクテルの一つである。
正式にはモスコー・ミュール(Moscow Mule)といい、「モスクワのラバ」という意味らしい。
初め私は「モスクワのバラ」であると誤読し、なんてロマンチックなカクテルであったのだろうと驚いたものだ。
あんなさっぱりした定番のカクテルにそんな意味があったとは、なんて思っていたらラバである。
モスコミュールは何も悪くはないのだが、勝手に裏切られたような気持ちになってしまった。
とにかく、モスクワのラバという意味のカクテル。
ラバに蹴飛ばされたように強いウォッカベースのカクテルである、ということを表しているとのこと。
なお、名称にはクーラーとは付いていないが、クーラーの一種である。
クーラーとは蒸留酒に、酸味(レモンやライムの果汁)と甘味料を加え、炭酸飲料で割ったカクテルという意味だ。
つまり、モスコミュールとは、そのようなレシピのカクテルということだ。
ベースであるウォッカは45ml、ライム・ジュース15mlにジンジャーエールは適量というレシピが標準的なものとなる。
飾りでライム・スライスを一枚飾るのがお決まりとなっている。
ただし、これは日本での標準的なレシピで、飲み口はやや甘くアルコール度数も高くないカクテルになっている。
本来はジンジャー・エールではなくジンジャー・ビアを使うことになっているが、日本ではジンジャー・ビアの入手が難しいため代用としてジンジャー・エールを使用したレシピが広まったと言われている。
当然現在はジンジャー・ビアも大手スーパーなどで手に入れることが可能だ。
ただし、手に入る入らないという意味ではなく味の意味でジンジャーエースがすでに広まっているため、なかなか浸透しないのが現実問題のようだ。
ジンジャービアーは、ビールと勘違いしてしまうようなネーミングだがそうではなくソフトドリンクである。
生姜を香味付けに使った炭酸飲料(ソフトドリンク)で、味は生姜がピリッと利いていて、普段ジンジャーエールを飲みなれている方はあまりの違いにびっくりするかもしれない。
私も個人的にはやはり甘みの強いジンジャーエールの方が好みである。
さて、そんなモスコミュールだが、その誕生にはいろいろな説がある。
・1940年代初頭、ハリウッドのジャック・モーガンというバーテンダーがイギリスのリキュールである「ピムスNO.1」を使ったカクテルのために大量に仕入れたジンジャービアの在庫を処分するために考案したとされる説。
・1946年にスミノフブランドのウォッカの販売促進のため、スミノフを使った手軽に作れるカクテルを製造元のヒューブライン社が紹介したため広がったという説。
・ジャック・モーガンとヒューブライン社が組んで広めたとされる説。
いずれにしても、ジャック・モーガン氏は一枚噛んでそうな雰囲気がある。
というか、もし発案者でなかったら、一体誰なんだ?どこから名前が出たのだ?という話しである。
一般的に広まったカクテルが、メーカーや国などが考えたのではなく一個人が考えたというケースは以外にも稀であるので、(もし本当であるならば)このジャック・モーガン氏はバーテンダーの先輩として尊敬に値する。
また、モスコミュールは本式では銅のマグカップに入れて提供されるものである。
今日でも本格的なバーではそのようにして出されているのは、ジャック・モーガンの友人が器を銅のマグカップにすることを提案し、それが広まったとされているからである。
銅のマグカップの件にまでモーガン氏の名前が出てくるぐらいなので、もう発案者はモーガン氏で決定でいいと思うのは私だけだろうか。
よくはわからないが、ハリウッドでバーテンダーをしていたぐらいだから、さぞかしハンサムであったのではと勝手に思っている。
それにしても、1940年代初頭といえば、日本と米英とが開戦して第二次世界大戦の真っ只中のはずである。
その裏で、本土ではバーテンがカクテルのレシピなんぞを造ってお酒を売ろうとしているわけだから、それはアメリカには負けてしまうというものである。
今では、平和になったもので世界中のお酒を好きな時に飲めるのだから、本当に幸せというものだ。
平和という幸せを噛み締めながら、日本のバーテンダーが作るモスコミュールを飲んでみてはいかがだろうか。
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