スコットランドの歴史から誕生したとも言えるウィスキーベースのリキュール「ドランブイ」。
このドランブイにさらにスコッチウィスキーを加えて出来上がるカクテルが・・・ラスティネイル。
このカクテル名を直訳すると、錆びれた釘。
しかし私達バーテンダーが、いくら錆びれた釘と訳したところで、それを飲むお客様はチンプンカンプン。
ラスティネイルに限らず、無数にあるカクテルには、それぞれに意味があるはず。
謎に包まれたままのカクテルも多く存在するが、そういったカクテルの由来を考えながらグラスを手に取るのも、バーの楽しみ方のひとつです。
では、このラスティネイルというカクテルには、どういった意味が込められているのでしょう。
ラスティネイルの由来には様々な仮説がありますが、どれが正解なのかは正直なところ誰にも判断できません。
ただ、私はこのラスティネイルを飲むとき、こんなことを考えながら貴重なバーの時間を過ごしています。
それはカクテルのベースである、ドランブイというリキュールが誕生した理由。
ドランブイは、とある王室の末裔チャールズが王権の奪回に破れたことをきっかけに誕生したリキュールです。
ここでは、詳しいドランブイの説明については省きます。
チャールズにとって、決してハッピーエンドではなかった歴史上の結末。
本来ならば、奪われた王権を取り戻し、そこに堂々たる歴史を釘打つはずであったが、スコットランドで敗北に終わってしまったのです。
その後も長い逃亡生活を続け、王室へ忠誠を誓う者に匿われてきました。
新たな歴史を刻もうと、誰にも負けない野心を持ち挑んだ戦い。
しかしその思いは叶わず、スコットランドで打ち直すはずであった釘はやがて錆びれてしまったのです。
このことからも、ラスティネイルで使用するウィスキーがスコッチであることにもうなずけます。
ドランブイはもともと、王室にて代々受け継がれてきた薬酒。
ハーブと甘い蜜で作られたその薬酒はドランブイとなり、そしてラスティネイルへと姿を変えた。
スコッチが加えられたそのカクテルを味わうたびに、チャールズの無念が頭をよぎるのです。
その無念をいつまでも癒し続けようと出来上がった、甘いながらもスコッチがガツンとしみる切ないカクテル。
これがラスティネイルだと、私は思っています。
ハーブの香りと密の甘さ、そこに加わるスコッチのツンとした刺激がチャールズを癒す現代の薬酒になっているように感じるのです。
決して風化させたくないチャールズの勇敢な野心。釘は錆びれても、いつまでもそこに残るという意味を持つのではないでしょうか。
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